Partager

第21話 この家の中に、敵がいる

last update Date de publication: 2026-09-22 15:26:53

第21話 この家の中に、敵がいる

 本邸へ戻るまでの車内で、結衣と玲司はほとんど会話をしなかった。

 篠崎から届いた写真は、玲司のスマートフォンにも転送されていた。

 そこに写っているのはエマだった。

 昨日の午後、庭の温室近くで一人、しゃがんで花を見ている。

 ごく普通の姿だった。

 だからこそ怖い。

 エマが泣いているわけでも、誰かに連れ去られようとしているわけでもない。ただいつもの家で、いつものように過ごしているだけなのに、その日常を誰かが無断で覗き、撮影し、送りつけてきた。

「これ、外から撮れます?」

 結衣が画面を拡大しながら尋ねた。

「難しい」

 玲司の声は硬かった。

「温室の東側には高い塀がある。外からこの角度は無理だ」

「じゃあ敷地の中」

「ああ」

Continuez à lire ce livre gratuitement
Scanner le code pour télécharger l'application
Chapitre verrouillé

Dernier chapitre

  • 声を失った少女を助けたら、冷徹CEOの契約妻になりました ~一年だけの偽装結婚なのに「君とこの子を、もう二度と手放さない   第60話 父は家族会議に参加したのではなく、止めに来ていた

    第60話 父は家族会議に参加したのではなく、止めに来ていた 軽井沢の迎賓施設で撮られた古い写真に、白石真帆の父・孝一が映っていた。 本来なら、そこにいる理由がない男だった。 九条記念医療センターの元事務局長。病院への匿名寄付を扱っていた人物ではあるが、九条家の後継問題を話し合う非公式の家族会議へ出席する立場ではない。「真帆さんに確認します」 結衣が言うと、玲司はすぐ頷いた。「ああ。ただ、写真を見せて『父親は何をしていた』と詰めるような聞き方はやめよう」「分かってます」「彼女自身、父親から全部聞かされていたとは限らない」「玲司さん」「何だ」「最近、私が言おうとしてたことを先に言いますよね」「悪いか」「悪くないですけど、ちょっと悔しい」「なぜ」「私の役割が減るから」 玲司が少し笑った。「君には他にも十分ある」「例えば?」「俺が間違ったときに止める」「それは残ってるんですね」「多分なくならない」 自信を持って言うことではない。 結衣が呆れている横で、篠崎はすでに真帆への連絡手続きを始めていた。     * 真帆と繋がったのは、日本時間の昼過ぎだった。 英国は早朝に近い時間だったが、彼女はすでに起きていたらしく、画面の向こうで髪を簡単に束ね、湯気の立つマグカップを手にしている。『写真を送ってください』 結衣が軽井沢で撮られた画像を共有すると、真帆はしばらく黙っていた。『父です』「やっぱり」『でも』 真帆の

  • 声を失った少女を助けたら、冷徹CEOの契約妻になりました ~一年だけの偽装結婚なのに「君とこの子を、もう二度と手放さない   第59話 偽の婚約者は、結婚するために作られた女ではなかった

    第59話 偽の婚約者は、結婚するために作られた女ではなかった 香坂美玲という名前を、玲司の祖父・征一郎は覚えていた。 ただし、「玲司の婚約者候補として」ではなかった。「英国から来た家族資産管理の助言者だったはずだ」 翌朝、本邸へ呼ばれた征一郎は、軽井沢の迎賓施設で開かれた七年前の非公式会議の参加記録を前に、珍しく自信のない言い方をした。 年齢のせいだけではないのだろう。あの事故を挟んだ時期の記憶は、誰にとっても出来事が多すぎる。何を事故の前に知り、何を事故後に聞いたのか、本人の中でも境目が曖昧になっている部分がある。「顔は覚えてる?」 玲司が尋ねると、征一郎は篠崎が用意した古い写真をしばらく見つめた。「この女だ。間違いない」 写真には、軽井沢の迎賓施設の玄関前で撮られた十数人の集合写真が残っていた。 中央には征一郎、その隣に美佐子。少し離れたところに桐谷がおり、端のほうに三十歳前後に見える女性が立っている。 香坂美玲。 玲司の婚姻候補として作られていた資料の写真とは、顔が違った。「やっぱり別人ですね」 結衣が言うと、美佐子が腕を組んだ。「そもそも私は、この人が玲司の結婚相手候補だなんて一度も聞いていないわよ」「会議では何と紹介された?」「英国側のファミリー・ガバナンス専門家。エレノアさんの母方資産にも詳しい人間だと」「誰が呼んだ」 玲司が桐谷を見る。 桐谷は逃げずに答えた。「私です」 結衣が驚いて振り向く。「桐谷さんが?」「はい。ただし、私が個人的に選んだわけではありません。ウェリントン側へ『圭司様に不測の事態があった場合の未成年後継者保護について助言者を派遣してほしい』と依頼しました

  • 声を失った少女を助けたら、冷徹CEOの契約妻になりました ~一年だけの偽装結婚なのに「君とこの子を、もう二度と手放さない   第58話 兄が死ぬ前から、俺は「次の社長」にされていた

    第58話 兄が死ぬ前から、俺は「次の社長」にされていた 翌朝九時ちょうど、ダニエルから暗号化された資料が届いた。 ファイル名は、昨夜知らされたものと同じだった。『K-17 FAMILY ACCESS』 玲司はすぐに開こうとはしなかった。 リビングの大きな窓から入る朝の光が、テーブルに置かれた端末の黒い画面へ反射している。エマはすでに学校へ送り出してあり、部屋にいるのは玲司、結衣、篠崎、それからオンラインで接続を待っているダニエルだけだった。「開けないんですか」 結衣が尋ねると、玲司は端末の前で指を組んだ。「開ける」「その割には三分くらい止まってますけど」「時間を計ってたのか」「たまたまです」「嘘だな」「半分くらい」 玲司は少しだけ笑ったものの、その表情はすぐ硬くなった。「兄貴が生きていた時点で、俺を『代替後継』として扱う計画があった。頭では、企業なら危機対応計画くらい作ると分かってる」「でも、自分の家族の名前で見ると違う?」「ああ」 玲司は素直に認めた。「兄が死んだあと、実際に俺がその位置へ入ったからな」 結衣は、すぐに「玲司さんのせいじゃない」とは言わなかった。 それはもう、何度も話してきた。 玲司自身も、以前ほど簡単には自分を有罪にしなくなっている。それでも、古い傷へよく似た形の資料を突きつけられれば、何も感じずにいられるわけではない。「じゃあ、一緒に見ましょう」「ああ」「途中で嫌になったら止めてもいいです」「君もな」「はい」 二人が同時に篠崎を見る。 篠崎は一度

  • 声を失った少女を助けたら、冷徹CEOの契約妻になりました ~一年だけの偽装結婚なのに「君とこの子を、もう二度と手放さない   第57話 七年間消えていた叔父は、エマに会わないと言った

    第57話 七年間消えていた叔父は、エマに会わないと言った ダニエル・グレイヴスが少なくとも三か月前まで生きていた。 その事実が分かったからといって、すぐに居場所まで分かるわけではなかった。 ヴァレント側の回答は頑なだった。封印保管物の指定監督者について、本人確認が毎年行われていることは認める。しかし、確認場所、現在の住所、連絡先は、契約上の守秘義務により後見人である玲司にも開示できない。「生きていることは教えるのに、どこにいるかは教えられない?」 翌朝、結衣が届いた回答を読みながら眉を寄せると、篠崎は淡々と頷いた。「正確には、本人から所在情報の開示許可が出ていないためです」「なら、こちらから連絡を渡してもらうことは?」「それは可能とのことです」 玲司がすぐに口を開いた。「では、俺から面会を求める」 結衣は隣から玲司を見る。「エマちゃんのことも書きます?」「書く」「会いたがってることも?」 玲司の手が止まった。 以前なら、迷わず書いていたかもしれない。「……いや」「どうして?」「それを使って、会わせようとするのは違う気がする」 結衣は何も言わず待った。「エマが会いたいと思っていることは事実だ。でも、その気持ちを『だから出てこい』と迫る材料にしたくない」「うん」「まず俺と話す。そのあと、ダニエルが何を考えているか聞く。エマに会うかどうかは、それから本人にも聞く」 結衣は少しだけ笑った。「何だ」「いいと思います」「それだけ?」「今日は成長しましたねって言いません」

  • 声を失った少女を助けたら、冷徹CEOの契約妻になりました ~一年だけの偽装結婚なのに「君とこの子を、もう二度と手放さない   第56話 母を疑った兄は、最後に妹を信じた

    第56話 母を疑った兄は、最後に妹を信じた 事故の三日前、ダニエル・グレイヴスは、妹エレノアが「二度と娘に近づかないで」と拒絶した男と東京で会っていた。 その事実だけを見れば、疑おうと思えばいくらでも疑える。妹に隠れて接触していたのかもしれないし、エレノアとは違う思惑を持っていた可能性もある。 けれど、これまで何度も「分かりやすい証拠」に振り回されてきた結衣は、もう最初に浮かんだ答えへ飛びつく気にはなれなかった。「ダニエルさんが会った理由を先に調べましょう」 翌朝、篠崎が追加資料を持ってきたところで結衣が言うと、玲司もすぐに頷いた。「ああ。会ったという事実だけでは何も分からない」「成長しましたね」「それ、毎回言う必要ある?」「確認です」「何の」「元に戻ってないか」「君は俺の品質管理担当か」「不具合が多かったので」「朝から容赦ないな」 玲司は不満そうにコーヒーを飲んだが、以前のように結衣の言葉を跳ね返さなかった。篠崎も、二人の会話が終わるのを待ってから淡々と資料を開くあたり、完全に慣れている。「ホテル側の記録を確認できました。七年前のため映像は残っておりませんが、来訪者記録と客室電話の履歴が一部保存されていました」「ダニエルがエイドリアンの部屋へ行った?」「はい。ただし、宿泊者名義はエイドリアン・クロウではなく、マーカス・ウェルナーです」 結衣は眉を寄せた。「またその名前」「当時、業務用匿名名義として使用されていたことは、すでに英国側から確認されています」「面会時間は?」 玲司が尋ねる。「午後五時十二分から五時五十八分まで。四十六分です」「そのあとダニエルは?」

  • 声を失った少女を助けたら、冷徹CEOの契約妻になりました ~一年だけの偽装結婚なのに「君とこの子を、もう二度と手放さない   第55話 六歳の記憶を、証拠のために使いたくない

    第55話 六歳の記憶を、証拠のために使いたくない「ママが言った。二度と、娘に近づかないで」 エマが手話で伝えた言葉を見た瞬間、玲司は反射的に次の質問をしかけた。「その男は、ほかに何を――」 途中で口を閉じる。 エマは写真の男を見たまま、両手を膝の上で握っていた。 つい数分前まで、水を飲みに来ただけだったのだ。寝間着姿で髪も少し乱れ、片方の靴下が足首まで下がっている。その六歳の少女を、大人たちは一瞬で七年前の事件の証人に変えようとしていた。 玲司はそれに気づいたのだろう。 画面を伏せた。「もういい」 結衣が玲司を見る。「玲司さん」「今夜は聞かない」 玲司はエマの前へしゃがんだ。「思い出さなくていい。さっき教えてくれたことだけで十分だ」 エマが不安そうに玲司を見る。『大事じゃない?』「大事だ」 結衣が手話へ変える。「だからこそ、無理に思い出させたくない」『でも悪い人?』 玲司は少しだけ言葉に迷った。「分からない」 以前なら、危険人物だと決めていたかもしれない。 だが今は、分からないものを分からないと言う。「お母さんが怒っていた理由も、その人が本当に何をしたのかも、まだ俺たちは知らない」 エマは伏せられた画面を見た。『私、忘れた』「忘れていい」『でも思い出したほうがいい?』 その問いに。 結衣の胸が痛くなった。「エマちゃん」 結衣も床へ膝をつく。『思い出せ

Plus de chapitres
Découvrez et lisez de bons romans gratuitement
Accédez gratuitement à un grand nombre de bons romans sur GoodNovel. Téléchargez les livres que vous aimez et lisez où et quand vous voulez.
Lisez des livres gratuitement sur l'APP
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status